船のくらし

母港加古川

揚地荷役

旭丸の船籍は加古川(東播磨港)です。
母港と言える加古川に帰港すると顔見知りのフォアマン(荷役責任者)やエージェント(代理店)の方々と荷役の進行計画、入港書類の提出、燃料の補油予定などを打ち合わせます。
時折加古川までの航海の様子はどうだったか、次の航海はどこになるかなど談笑を交えながら進めます。
左の写真、先代の旭丸(1994年~2017年の間運航)の事務室で約10年前に撮影された1枚で同じ荷役責任者の方が実は写っています。
喜びや悲しみを繰り返しながら時代は変わっても、変わらない関係を続けさせて頂いております。

水先人乗船と明石海峡通過

水先人と狭水道通過

各航海の区切りは、最後の係船索(船を繋ぎ止める綱)が陸を離れた瞬間です。
無事最後の係船索が離れ出港し、最初の難所である明石海峡航路を内海水先人の嚮導(きょうどう=指揮)の下通過します。
時には3ノット以上の強い潮流に逆らいながら航行することも。
位置をなるべく航路の中央に維持しかつ、周囲の他船に注意しながら通過します。
無事抜けると大阪湾の水先人が乗船し友が島まで向かい、水先人を無事下船させ紀伊水道を抜けると次の港へ向けエンジンの回転数を上げ一定に保ち、航進開始(Start Of Sea Passage=SOP)となります。
世界各地の港へ針路をとり、大海原への大航海が始まります。

鏡のような海

豪州航海

本船旭丸の主な積港の一つであるオーストラリアへ向かう際は、総じて穏やかな気象、海象が続きます。
特にパプアニューギニア付近では、まるで鏡のような海面、湖でも走っているのではないかという感覚に陥る程静かな海域を通過することも。
また、熱帯性気候特有の暑く湿った空気のなか、高く成長した積乱雲から竜巻が伸びる瞬間を見ることもごく稀にあります。
日本の大型のかつお漁船なども目指す海域ですので見張りに注意しながら航海を続けます。
玄関口のジョマード海峡を抜けるとオーストラリア北東、グレートバリアリーフを抱えるコーラルシー(珊瑚海)に入ります。

荒天航海

カナダ航海

オーストラリア向けの航海とは、打って変わってカナダ向けの航海は過酷です。
特に冬季は、連日台風並みに発達した低気圧がユーラシア大陸から低気圧の墓場と呼ばれる「ベーリング海」をめがけ東進してきます。
荒天の海域は日本列島をすっぽり覆うくらい広範囲に及びそれを避けることができない状況もあります。
そんな時、船はどうなっているかと言うと、ローリング(船の横方向の揺れ)により船体は35度から40度傾き、ピッチング(縦方向の揺れ)やパンチング(波が船体を叩く)により船体が大きく撓み、ベッドで夜寝ることもままなりません。
船体や機関への負担を軽減すべく、荒天が過ぎ去るまで速力を落とし耐え凌ぎます。

氷結する船

寒冷地航海

北太平洋の航海では、大圏航路という最短距離を航海します。
千葉県野島崎沖を過ぎると大きく北へ進路を向けロシアカムチャツカ半島の東を通過し、アッツ島付近で進路を変えベーリング海に入ります。
そのころには、気温は0度を下回り、海水温も下がります。
鉄でできた船も直ぐに冷え少しずつ氷結が始まります。
真っ白に氷結した船体は、氷の彫刻のようでどこか美しささえも感じることがあります。
なお、東へ向かうにつれ海水温が上昇し、これらの氷は解けて行きます。

航海士の魅力

職務紹介

世界を股にかける航海士という職業は、なんと言ってもそのスケールの大きさが魅力です。
お客様からお預かりした貨物を港から港まで安全にお届けすることが第一の使命ですが、同時に金額にして億単位のものが動くわけですから、自分も日本経済を支える一員として、自覚と誇りを持って仕事をすることができます。
更に航海中は二十数名の乗組員の人命を預かり、会社の財産である数十億円の船を操ります。
責任が重大な分、やりがいも大きい仕事です。
一方、海からしか見ることができない景色を望むことができるのも航海士の特権です。
大洋に出れば360°を大好きな海に囲まれ、見渡す限り水平線。
空と海は毎日違う顔を見せてくれます。
船から見た満天の星空は陸上のどこで見るより美しく、刻々と変わる星座の位置に地球の動きすら感じることができます。
航海士はそんなロマンを感じることもできる唯一無二の職業です。

機関士の魅力

職務紹介

◎UMSチェックで毎日船内全てを隈なく調査。
UMS船では夜間は誰も機関室にいません。
定期的に見回りを実施しています。
不具合が発生した場合、当直エンジニアの部屋にアラームが鳴るシステムがUMS(UN MANNED SYSTEM)です。夜間にアラームが鳴ると翌日は寝不足になり、仕事がつらい日もあります。
毎日実施するUMSチェックでは、機関室から船橋の船内各所隅々まで確認します。
圧力、温度など全て記録しているので、過去の記録と比較して機器の状態を分析する事ができます。
不具合が解決しない場合は機関室をUMSにする事はできず、当直体制を取ります。

◎整備作業はチームプレー!
船のエンジンは非常に大きく、一人でできる作業はほとんどありません。
また主機関や発電機、空気圧縮機の轟音が鳴り響いており、会話はまともにできません。
そのため制御室でのツールボックスミーティングはとても重要です。
荒天航海で船が大きく揺れて寝れない夜があっても遅刻は厳禁。
整備作業では自分の作業に集中しながらも他人の作業にも気を配り、協力し合って進めます。
作業はミスがないよう正確かつ迅速に行い、予定通りに終了できれば機関部の結束は一段と高まりますね。

◎いつもと違う音が鳴ると気になって夜も眠れない?
エンジニアは海上の美しい景色には何の興味もなく、とにかくエンジンのことで頭がいっぱいです。
次の開放整備はどんなメンテナンスをするか、予備品はどこを交換するか。
予想される緊急事態にどのように対応するか。
これを考えていないと夜間にトラブルが発生した場合に全く動けません。
また、いつもと違った音が聞こえると心配になって悩み続けます。
不具合の原因が分かった時、エンジニアとして少し成長したと感じられます。
エンジンは知れば知るほど疑問が発生し、その答えを地道に追求することが楽しみの一つでしょう。

船の食事

食事紹介

安全運航を縁の下の力持ちとして支えるのは司厨部(ケータリング)です。
甲板、機関部18人前後の乗組員にチーフコック、セカンドコック、メスマンと3人(フィリピン人)で対応します。
味にはうるさい乗組員の舌を満足させるべく工夫を凝らした料理を日々提供しています。
食材の管理も彼らの仕事です。
次の港まで食材を切らすことのないよう厳しく在庫管理を行います。
各港を出港した後は必ず食料庫は新鮮な食材でいっぱいになります。
食事の時間になるのが待ち遠しい毎日です。
果たして今日の夕食はなんだろうか?

健康管理

衛生管理者

毎月月末になると、体重、血圧、握力、尿検査などの健康診断そして最後にアルコール検査を行います。
限られた人数で運航している船ですので自身の健康を維持すべく全員が健康管理に気をつけます。
しかし、気をつけていてもカゼなどの軽い病気にかかることもあります。
そんなときのため、船員法81条に従い各種薬品を船の病室に常備しています。
船舶衛生管理者という有資格者(乗組員)が責任を持って対応します。
時には、無線医療と言い電話やファックス、Emailなどで医師の助言を聞きながら処置を行うこともあります。
更に緊急を要する場合は航路至近の港にて緊急下船やコーストガード(日本では海上保安庁)によるヘリコプター下船なども行います。

レクリエーション

娯楽

船の勤務形態は8時から12時、12時から16時、16時から20時といったような基本三交代制です。
また、機関部は昼間の時間の仕事です。
それ以外は入出港スタンバイ中(準備)を除き休息、自由時間ですの皆それぞれの方法で自由時間を楽しみます。
バスケット、錨地(エンジンを止め錨を下ろしている状態)では釣り、ジムで運動をしたりします。
文化的な方面では、映画を見たり、カラオケをしたり、ゲームなどです。
毎月娯楽費という娯楽の為の予算が組まれておりますので担当乗組員が工夫して予算を最大限活用します。

パートナー

日比人船員

弊社の所有、運航、管理船にはフィリピン人船員が乗り組んでいます。
また、所有船旭丸は日本人とフィリピン人が乗り組む所謂混乗船です。
お互いの文化、宗教、生活習慣を理解、尊敬し合いながら親交を深め、コミュニケーションを円滑に、安全運航へ繋げていきます。
多くのフィリピン人はキリスト教徒ですので、皆でクリスマスパーティーを開いたり、誕生日をお祝いしたりとイベントが絶えません。
ちなみに、フィリピンでは、誕生日を迎える人がお酒や料理など準備を整え皆さんをお招きするという、日本とは逆の習慣となっています。

ヘリコプター到着

ヘリ乗船紹介

日本から約14日から15日の航海でオーストラリアのニューキャッスル港へ到着します。
港の入り口まで行くと水先人がヘリコプターで乗船します。
船の針路と速力を調整しヘリがランディングしやすいよう準備、万が一の墜落にも備えヘリコプターランディングハッチ(4番船倉のカバー)付近には消火、救護班がスタンバイします。
無事ランディングを終えると担当航海士の案内により共に船橋(操舵室)へ。その後ブリッジチーム(船長、航海士、操舵員)へ、タグボート、変針点、注意すべき事柄など情報共有が行われた後、嚮導が開始され着岸までを完了します。

オーストラリア、ニューキャッスル

積荷役

ニューキャッスル港はオーストラリアの、製鉄原料炭及び一般炭(発電用石炭)輸出主要港です。
港の入り口にはNOBBY’S HEAD 灯台という白い灯台があり、港の管制(VTIC=Vessel Traffic Information Center)もこの灯台敷地内にあります。
また本船の到着時間もこの灯台を基準として決められ、灯台から引いた10マイルの弧に達した時間が公式の到着時間となるため非常に重要な役割を果たしています。
ニューキャッスルで印象的なのは、丘の上には教会、市街地には日本のような超高層ビルなどはあまりなく、住宅地は広い国土を有する国でならではの平屋中心のゆとりが感じられる街並みです。
一方、積み荷役はあまりゆとりはなく、約83000トンの石炭を17、18時間で積み切ってしまうほど荷役の速い港と言うことで有名です。

カナダ、バンクーバー

積荷役

北太平洋の厳しい冬季航海を無事乗り切り見えてくるのは、バンクーバーの美しい街並みと雪を被った山々です。
錨地で待機しているとアザラシが泳いでいるのが見えたり、近くでヨットが行き来するなど港町としての風情があります。
比較的荷役時間が長めの港で乗組員も仕事の合間を縫って交代で上陸します。市街地へ出かけたり、近場のスーパーで買い物をしたりと、リフレッシュし帰りの航海への英気を養う時間となります。
出港から下船点であるビクトリアパイロットステーションまでの85マイルはカナダの水先人の嚮導の下航行して行きます。
7-8時間に及ぶ長い嚮導でコーヒーなどの飲み物はもちろん、日本食などの食事を提供したりとおもてなしも忘れません。
中には、緑茶が飲みたいと仰る水先人もおります。

特別な瞬間

番外編

船でのクリスマスは特別なものになります。
特にキリスト教徒(南部ミンダナオ島はイスラム教徒)の多いフィリピン本国では”ber”のつく月すなわち、September =9月から12月24日のクリスマスの準備を始めると言われるくらい重要な宗教的行事です。
船でもそれは変わりません。船内の飾りつけ、料理、イベントなど皆でアイディアを出し合い作り上げて行きます。
船にもよりますが、航海中であれば仕事はお休みになり23日の夜からパーティが始まり、24日のその瞬間をお祝いします。
一緒に船上でクリスマスを過ごしたクルーは特にお互いの絆が深まるように思います。新年が明けると服装を整え記念撮影します。